ステキなヒント
シニア向けビジネスに参入したい方へ [ 2 ]
シニア世代向け写真館が美容室事業を始める理由
シニア世代向けの写真館「えがお写真館」を立ち上げて4年目の2017年。写真館を運営していた私たちが、まったくの未経験である「美容室事業」を展開することになりました。
今回は、なぜ美容室事業を始める決断をしたのか。その背景についてお話ししたいと思います。
きっかけはお客様の声から
「えがお写真館」のサービスの特長として、撮影前にヘアメイクを行うことが挙げられます。
当時、ヘアメイクの施術の際、お客様から「髪のカットはできないの?」「カラーはしてもらえないの?」といった声をよくいただいていました。
思えば、ほとんどの方が数ヶ月に1度は美容室に通われているのに、なぜ私たちにわざわざ「髪のカットはできないの?」と尋ねてくるのでしょうか。
調べてみると当時、日本に美容室は約25万軒もありました。
これは、日本の信号機の数よりも多い数です。
これだけの数の美容室があるなら、わざわざ私たちに髪のカットを依頼する必要もなさそうなのに……。
その時はとても不思議に思いました。
しかし、お客様に理由を聞いて納得しました。
「若い人みたいに、お洒落な場所で、トレンドを入れた髪型にしてもらいたい。でも、若い子たちがいる美容室では居心地が悪いのよ。来るなとは言われていないけど、なんとなく場違いな気がして……。」と。
確かに、現在でもシニア世代向けの美容室を目にすることはほとんどありません。
美容室の広告やウェブサイトを見ても、モデルはほとんど若い女性ばかり。シニア世代がターゲットにされていないのは明らかでした。
年齢を重ねたからといって、おしゃれをしたくなくなった訳ではありません。
実際には、多くのシニア世代の方々が「おしゃれな美容室に行きたい」「流行のヘアスタイルを試してみたい」と思っているにもかかわらず、周囲の目を気にして諦めていたのです。
私たちは、写真館でシニア世代の方々を美しくするサービスを提供してきました。だからこそ、「シニア世代向けの美容室を作るのは、私たちの使命なのでは?」と強く感じ、美容室事業への挑戦を決意しました。
写真館の売上は好調だったが、新たな挑戦を決意
実は、この頃の「えがお写真館」の売上は非常に好調でした。
開業当初はまったくお客様が来ず、経営が苦しい時期もありました。「おばあちゃんの原宿」と呼ばれる東京・巣鴨に店舗を構えれば、自然とお客様が来るだろうと考えていましたが、現実は違いました。資金が底をつきそうになり、廃業も考えたほどです。
しかし、あるテレビ番組に取り上げていただいたことをきっかけに認知度が上がり、徐々にお客様が増え、4年目の2017年には数ヶ月先まで予約が取れないほどの人気となりました。
通常であれば、事業拡大を考える際には、写真館の2店舗目を出すのが一般的な選択肢でしょう。すでに蓄積されたノウハウがあり、リスクも比較的少ないからです。
しかし、私たちはあえて未知の「美容室事業」に挑戦することにしました。それは、お客様の声があったからこそ。写真館の成功があったからこそ、新たな挑戦ができたのです。
美容室を作るために、まず行動したこと
美容室を始めると決めたものの、何から手をつければよいのか分かりませんでした。
まず、美容師を探すことから始めました。知り合いの美容師に声をかけましたが、あまり真剣に取り合ってもらえませんでした。
当然のことです。美容師の視点からすれば、「写真館をやっている人が突然美容室を始める」と言っても、どこまで本気なのか分かりません。話半分にしか聞いてもらえなくても仕方ありません。
そこで私たちは、「まずは美容室を作ってしまおう」と考えました。
一般的な美容室を作るのはリスクが高いため、えがお写真館の近くにあるビルのワンフロアを借り、2/3を撮影スタジオ、1/3を2席+シャンプー台のみの小さな美容室にしました。
この頃、企業の広告撮影などの案件も増えており、写真館だけでは手狭になっていたため、この形がちょうど良いと判断しました。
こうして、撮影スタジオと併設した小さな美容室が誕生しました。
シニア向け美容室に共感する美容師との出会い
美容室を作ったことで、ようやく「シニア世代向けの美容室をやってみたい」と共感してくれる美容師が現れました。
彼に美容室を任せるにあたり、私たちは1つだけ条件を出しました。
「今抱えているお客様は連れてこなくていい」
彼は当時、代官山の美容室で店長をしており、多くの常連客を抱えていました。しかし、そのお客様をそのまま連れてきてしまうと、私たちの「シニア世代専門美容室」というコンセプトが崩れてしまいます。
私たちが目指したのは、「若いお客様に気を遣わず、シニア世代が気軽に通える美容室」でした。そのため、売上よりもコンセプトを貫くことを優先したのです。
えがお美容室のオープンと成長
こうして2018年1月、「えがお美容室」がオープンしました。
お客様ゼロの状態でのスタートだったため、初月の売上は15万円、2ヶ月目も18万円と非常に厳しい状況でした。
ホットペッパービューティーにも加入しておらず、宣伝も口コミが中心だったとはいえ、かなり厳しい数字です。
流石にこの状況は見過ごせないため、「シニア世代向け」というコンセプトを崩そうかと頭をよぎったことも何度もありました。
しかし、3ヶ月目には30万円、4ヶ月目には45万円と徐々に売上が伸び、半年後には90万円に到達しました。
一度来店されたお客様の多くが「私たち向けの美容室ができたわよ!」と口コミで広めてくださったのです。
広告を打たなくても、そもそもお客様の要望から生まれたサービスです。しっかりと伝われば、お客様が来てくださることを実感しました。
事業の軌道修正と「グレイヘア」のコンセプト
もちろん、運営をしながら微修正を繰り返しました。
例えば、当初は「シニア世代専門美容室」というキャッチコピーを掲げていました。私たちとしては「シニア世代専門」というコンセプトが新しく、強みになると考えていたからです。
しかし、お客様の視点で見ると「シニア世代向け」ということは伝わるものの、「具体的にどんなことをしてくれるのか?」が分かりづらいという課題が浮かび上がりました。
ふと、えがお写真館のことを振り返ると、単に「シニア世代専門写真館」というだけではなく、「シニアビューティ」という具体的なサービスが注目されたことを思い出しました。
サービスとして「シニアビューティ」という部分は特長を出しやすかったため、多くのメディアでも取り上げていただけるきっかけになりました。
そのため、美容室でも、もっとサービスにフォーカスしたキーワードを見つける必要があると考え、「グレイヘア」というキーワードを選びました。
ちょうど2018年当時、女性芸能人の間でも「グレイヘア」が注目され始めていた時期でした。
それまで白髪が生えたら染めるのが当たり前とされていましたが、「グレイヘア」という言葉を通して、「白髪を楽しむ」という新しい価値観が浸透しつつあったのです。
コンセプトをしっかりと作ることはもちろん大切です。
しかし、運営をしながらお客様や世間の反応を踏まえ、少しずつ微修正を重ねることも重要です。
完璧なものを最初からつくるのは至難の業です。
まずはサービスを形にして走り出す。
そして走りながら方向性を微修正する。
これこそが、私たちがこれまで繰り返してきたアプローチなのです。
次なる事業展開へ
さて、美容室が軌道に乗り始めたことで、ここからさらなる事業展開を考えるようになりました。
翌年の2019年には、セレクトショップとネイルサロンを開業。
複数の事業を展開する上でのポイント、相乗効果の生み出し方などについては、また次回お話ししたいと思います。
▼ この記事を書いた人
太田 明良(おおた あきよし)
株式会社サンクリエーション 代表取締役
2014年株式会社サンクリエーションを創業。同年、東京・巣鴨にシニア世代専門『えがお写真館』を開業。その後も50代以上の女性を対象とした『えがお美容室』、『えがお洋品店(セレクトショップ)』、『えがお爪工房(ネイルサロン)』、『えがお美癒堂(エステティックサロン) 』を開業。
一般向けのサービス・コンテンツだけではなく、現在では業種を問わずシニア世代に対してビジネス展開をしている企業を中心に、多くの協業のオファーを受け、企画・監修・制作・プロデュースや企業アドバイザーなど多岐にわたって活動の幅を広げている。
こちらでEGAOの立ち上げからの歴史を描いた4コマ漫画を掲載しています。
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